人生コラム

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歳月

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テレビのコマーシャルは15秒、ラジオは20秒のものが多い。原稿は、15秒なら13.5秒、20秒なら18.5秒で読み終えるのが(業界では「アナ尻」という)よい。 CM録音中は「0.5秒巻いてください(0.5秒速く読んでください)」。などという声が飛ぶ。生放送では、アナ尻まで(時間がくると、強制的に声が切れてしまうから)頭でカウントダウンしながら口を動かす。 少々大げさに言えば、右目で原稿、左目で秒針を見ながら話を進める。一分一秒、時には0.5秒を追いつ追われつの毎日だ。それが日常になり、私はいつのまにか、自分自身のことさえ、目先のことしか見なくなっていたかもしれない。

それに気づかせてくれる便りが届いた。「お元気ですか?」で始まるそのメールの主は、二十数年前、体育祭の取材で行った学校の、当時の高校3年生。 少年は41歳になっていた。昨年、家族を連れてUターンしたという。フォークダンスで一緒に踊ったこと、深夜番組で自分の葉書が読まれたこと。 それがうれしくて、録音したテープを何度も聞いたことなどが書かれていた。進学、就職、結婚、そして父親となり、久しぶりのふるさとで聞くラジオの声が変わらないでいてくれたことがありがたいと。 懐かしい思い出の一部に、私の声も入っていたのだろうか。だとすれば、この仕事を長く続けられていることに感謝である。 仕事では秒針に追いかけられ、家に帰れば家事に追いつけない日々。しかし、必死で走った歳月は大きな川となり、私の後ろをとうとうと流れていたのだ。 川はおだやかである。若い私には作れなかったはずだ。きょうは時計をはずし、流れに身をゆだねてみようか。

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